米国における債務免除益の取扱
Ⅰ.事実関係
- 1. 弊社は東京に本店を置き、製造業を営む内国法人です。
- 2. 弊社はバブル崩壊後、不動産投機に係る損失が多額に生じ経営不振に陥りましたが、当期中に弁護士や外資系ファンドのご尽力により、RCC、金融機関、サービサー等の債権者から債権放棄を部分的に受けることにより事業再生を図ることができました。
- 3. その結果、多額の債務免除益が生じましたが、繰越欠損金の5年の時効に係る部分が一部消滅しており、課税所得が発生し、その結果、法人税等につき納税をする必要が生じています。
- 4. 法人税法第59条(会社更生法等による債務免除等が生じた場合の欠損金の損金算入)の規定は承知しておりますが、その規定によっても納税が生じることとなり、この苦境において税金相当額の現金流出が生じ、割り切れない思いでいます。
Ⅱ.質問
- 日本の事業再生は米国からの制度が相当受け入れられたと聞いていますが、米国において事業再生法人は債務免除益について課税されるのでしょうか。
Ⅲ.回答
- 債務超過法人が債務免除を受けた場合は、債務超過額に相当する債務免除益は益金不算入とされる代わりに、益金不算入とされた免除益に見合う税法上の繰越欠損金(NOL)や未使用の税額控除額、将来の減価償却等の税法上の恩典を放棄することとなります。
Ⅳ.検討
- 1. 内国歳入法(IRC)第108条は以下の場合において債務免除益を益金に算入しないとの規定をおいています。
- a. 破産法(タイトル11と呼ばれる破産法のこと)が適用される場合
- b. 納税者が債務超過(資産の時価合計額より負債の方が多い状態を言う)の場合
- c. その他
- a.は法人税法第59条に対応する規定があり、c.はあまりにも特殊で参考にならないため、本稿においては上記 b.を重点的に解説します。
- 2. 納税者が債務超過の場合において、債務超過相当額の債務免除益は益金に算入されませんが、次の順序で税法上の恩典項目が減額されます。
- a. NOL(現行20年間繰越、2年間繰戻可能)
- b. 控除未済一般税額控除額(日本の未使用リース税額控除のように将来所得が発生したときに税額控除を受ける権利のこと)
- c. IRC52条に規定するミニマムタックス(税法の恩典をフルに使用する法人に対する追加課税)計算上の控除額
- d. 税法上の譲渡所得計算上の繰越欠損金
- e. 資産の取得価額(減価償却資産の未償却残高や土地等の税務上の簿価)
- f. IRC469条に規定する受動的所得計算上の繰越損失及び税額控除
- g. 控除未済外国税額控除額(将来外国税額控除を受ける権利のこと)
- 3. 上記の控除額については、税額控除額については免除益1に対してその3分の1が、その他の恩典項目については免除益1に対して1だけ恩典項目を減じるものとします。
- 4. 但し、納税者の選択により、上記2の順序に拘わらず、益金不算入とされた債務免除益相当額を減価償却資産の未償却額から減じることを優先的に行えます。
- 5. 上記の規定の結果、債務超過を脱するまでの債務免除益は、将来、所得が生じた時に税務上の恩典項目が減少することにより納税額が増加することと引き換えに、債務免除を受けた直後は課税されないこととなります。
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